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読書と映画の備忘録

+『ザ・ウォーク』を見ました


 少し前に『ザ・ウォーク』を見た。ツインタワーにワイヤーを張り、その上を歩いた伝説の綱渡り芸人フィリップ・プティを描いた映画。プティはフランス人なのだけれど、アメリカでゼメキスがつくったことや、ラストシーンの映像で「ツインタワーの神格化」という意図を少なからず感じて、うーんと思ってしまう。でも、そうでもしなければ、これはただのキチガイ映画になってしまうのではと指摘されて、納得したりもする。でも、それでよかったのだ。ツインタワーに張ったワイヤー上を恍惚として歩むフィリップは間違いなく情熱的なキチガイなのだから。
 この映画より、ドキュメンタリーの『マン・オン・ワイヤー』のほうに感動するのは、その情熱と狂気がよりきっちり描かれていたからだ。この映画を見たかったのも、ドキュメンタリーを見ていたからだった。
ツインタワーに張ったワイヤーをするする歩き、人々から感嘆をもって見上げられているフィリップは、水上を歩くイエスのようにも見える。ワイヤーの上に横たわったフィリップのもとに降りてくる鳥は、祝福を与えに来た聖霊なのか。それとも鳥が魂を持ち運びすると考えれば、何かの不吉さの象徴なのだろうか。  
 フィリップの行為は、誰にとっても特に意味のない、利のない行為なのに、あの高さを歩いているフィリップには不思議な崇高さがあり、多くの人の心を掴んでしまうのが面白い。