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「一つの違いはね。あたしは、いずれにせよ、あなたを克服するだろうということ」フラニーはぼくに言った。「それが、あたしよ、どんなことでも克服していくのが。だから、あなたに対してもそうなの。でもあなたはあたしを克服できないわね」フラニーはぼくに警告した。「あたしにはあなたって人がわかってる。あたしの弟、あたしの恋人のあなたが」彼女は言った。「そしてあなたはあたしを克服できない――少なくとも、あたしの助けがなかったら」(中略)「あなたとあたしは救いが必要なのよ、坊や」フラニーは言った。「だけど、とくにあなたにはそれが必要。あたしたちは愛しあっているとあなたは思ってるし、あたしもそう思っているかもしれない。あたしはそんなに特別な人間じゃないってことをあなたに示す時期がきたようね。風船が破裂しないうちに針で穴をあける潮時がきたのよ」
「あたしに信じさせて」彼女はぼくに言った、そしてぼくはその意味がわかった。それがぼくたちのあいだの婉曲表現となった――おたがいを求めるときにはいつも。彼女は藪から棒に、ぼくに言うのだ。「あたし、信じさせてもらう必要があるわ」あるいはぼくが彼女に言う、「スージー、少々信じさせてあげる必要があるような顔をしてるぞ」
(ジョン・アーヴィング 中野圭二訳『ホテル・ニューハンプシャー』新潮文庫、1986)
- 作者: ジョン・アーヴィング,中野圭二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1989/10/30
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