37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』(角川書店、2007) 

かんたんなものでありたい 朽ちるとき首がかたんとはずれるような

これもまた天使 くまなくひらかれてこころをもたぬ牛乳パック

吸いとってあげる朝日も はじまりがいつでもこわいあなたであれば

どんなにかさびしい白い指先で置きたまいしか地球に富士を

袖口であつあつの鍋つかみざまいのちのはてへはこぶ湯豆腐

 こんなによく晴れて気持ちのいい日、奇【くす】しくも一冊の本が手元にある。言葉は一切のよけいなものを削ぎ落とされて、垂直方向にどこまでも伸びていく。天の高みへあるいは冥く深いところへと。とりとめもなく溢れ拡散していく言葉を制御し、奥行きをさぐっていく思考によって、たった36文字に凝縮された世界は、だからこそいっそう鮮烈に輝きはじめる。
 指を遊ばせながら、ぱらぱらとページの間に見え隠れする言葉たちはどれもこれもが眩しくて、思わずまばたきをせずにはいられない。目を閉じた瞬間、削ぎ落とされて削ぎ落とされて美しくなったこの世界が消えはしないかと何処かで恐れながらも。


※上記は選びかねつつも選んでしまったとくに好きな歌5首…でも選びきることができなかった、というのがほんとう。