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読書と映画の備忘録

澁澤龍彦「夢ちがえ」

「目の力が異常にすぐれたひとは、よく夢を見る力にめぐまれているし、また他人の夢を吸いこんでしまう力にもめぐまれている。本人に悪意がなくても、無意識に他人の夢を吸いこんでしまうことがあるくらいじゃ。もしその本人よりもさらに力の強いひとがどこかにいて、その目の力をふるったとすれば、今度はそっちにひっぱられて、そのひとの夢のなかにすべてが吸収されてしまう。」
「としますと、すべてのひとの夢が、世界でいちばん力の強い、だれかひとりのひとの夢だということにもなりかねませぬ。すべてのひとの夢が入れ子になっていて、ひとりのひとの夢の中におさまってしまうということにもなりかねませぬ。」
「おお、よくそこに気がつきましたな。その通りじゃ。」
澁澤龍彦「夢ちがえ」『ねむり姫』河出文庫、1998)


このわたしをゆめみているさいごのひとにたどりつくことはできるのでしょうか?
生きながらにして死ぬことは可能でしょうか? 夢を閉じるとき、なにがおこるのでしょうか?
そのときは、夢の外側にはじきだされるというより、むしろ閉じることで完全に球体となった夢の内側に閉じこめられてしまうような気がしてなりません。