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読書と映画の備忘録

水妖記[本]

「魂って可愛ものらしいのね。でもまた、何かとても恐ろしいものに違いないわ。司祭さま、本当に魂なんか、いつまでも無いほうがいいんじゃないかしら。」


「魂って重い荷物に違いないわ。とても重いものに違いないわ。だって、そのかたちが近づいて来るだけでも、もう私には居ても立ってもいられないような心配や悲しみが影のように覆いかぶさって来るんですもの。いつもはあんなに軽い、楽しい気持ちでいられたのに。」(原文、「かたち」に傍点)


「父は地中海の有力な水界の王ですが、一人娘の私に魂を持たせたい、たといそのため私が、魂を持つ人々のさまざまな苦しみを受けるとしても仕方がないと考えました。ところが、私たちに魂の得られる道は、あなたがた人間の一人と愛でもってぴったり結びつくほかないのです。私にはもう魂があります。言葉で言いあらわすことができないほど、愛しいあなたのおかげです。たといあなたが私を一生みじめな目に会わせたとしても、私はあなたのことをありがたかったと思うでしょう。」

(フーケー『水妖記』岩波文庫、1938)