37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

それ以外の物語 その2

異国の酒壜の底に残っているわずかな液体を、そっと人差し指にとってくちびるにのせ、味わう。今はいないひとたちも、かつてこの壜から同じものを飲んだ。さまざまな思いに溺れそうになりながら、こっそりと今年も誰も知らない契りを結びなおす。遙か昔から、あるひとたちに受け継がれてきたであろう、あの誓いを(確認する術はなくても)。
わたしはわたしの限界まで。言葉の先に明滅する、かすかな導【しるべ】をたよりに、だれかの残した軌跡の少しでも先へ。このあしあとが、後に続く誰かの導となるよう、届くよう、すぐに消えそうになる希望に支えられながら。こんな足取りでもまだまだ歩きたい。

 くちびるにのせてみたお酒、開封時の香気はほとんど飛んでしまっているくせに、苦みが舌に残る。その味を死ぬまで覚えておかなければいけないだろう、という予感に襲われる。でも、そうであって欲しい。あるべきなのだ。忘れてはいけない。何か言葉になる以前の思いを守り伝えるためにも。