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読書と映画の備忘録

星の影

たんたんと慣れた手つきで、ものをつくる指先を見ている。瞬く間にそれはできあがった。学研「大人の科学」の付録のプラネタリウム。ちっちゃいながら、1万個の星が輝くしろもの。ぱちんと電気を消すと、部屋中にたちまち無数の星が出現した。手や身体に星影をうつしてみたり、白い紙にちらちら落ちる光をすくい上げてみたり。仄暗い天井に映えた宙【そら】を仰いでみたり。ためつすがめつ遊んでいると、刻を忘れた。顕れ出でた幻想的で儚い空間。指先一つで、消えてしまうような。その脆さに魅せられて、いつまでもわたしは影を追いかける。追いつこうとしても決して追いつけない星影たちを。
 ……星の話は尽きることなく、でも、この話をしていた瞬間、暗い宇宙からこちらに向かって放たれた光のすべてを見ぬ儘に、わたしたちは消えていってしまう。たとえどんなに見たいと望んでいても。たなごころにのせて眺めていた星の光は、ほんとうはとてもとても遠くからやってくるものなのだ。想像力すら追いつかないくらい、遠く遠くから。
 だから、数え切れないほどの星の影に隠れながら今日も密やかに遊び続ける。永遠に見えないまま届くことのないままの光たちを常に心に思い浮かべながら。いつか出逢える奇跡が起こりますように、という祈りだけを抱えて(そう、力尽きる前に、一度だけでも)。

プラネタリウム (大人の科学マガジンシリーズ)

プラネタリウム (大人の科学マガジンシリーズ)