37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

触媒

いつのまにか香りを記憶して貰っていた。覚え続けていて貰えるのなら、今度また同じ香りにくすぐられたとき、きっと思い出す。たとえ名前や交わした言葉を忘れてしまってもなにかそこにはないものたちを。香りは言語とは違った回路をもつ記憶や気配や物語の触媒だから(わたしにとってはいつもそうでした)。

二度と巡り会えない最高の物語と、香りと、料理と、音楽と、映像や景色が、それぞれあったとして、えらばなければならないとしたら、それでも、わたしはほかの歓びよりも香りを選んでしまうと思う。顕著に嗜好がでるのだとは思うのですけれど。