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読書と映画の備忘録

燃えるスカートの少女

◆「癒す人」

カップを手に入れられなかった人たちは火の女の子のところにいった。困ったり、さびしかったり、苦しんでいるときに、かれらは彼女に会いにいった。運がよければ彼女は燃える腕をバケツから出して、手首の先端でかれらの顔にやさしくふれてくれた。火傷はゆっくりと癒えて、頬には痕が残った。いま、街にはそんな痕のある人々の一群が歩きまわっていた。私は彼らに訊いた。痛いの? すると傷痕のある人々はうなずいた。うん。でもね、それは何かすてきな気持ちだったんだ、とかれらはいった。長く感じられる一瞬のあいだだけ、世界がかれらを抱きしめてくれるような気がしたのだった。

エイミー・ベンダー管啓次郎訳「癒す人」『燃えるスカートの少女』(角川文庫、2007)

燃えるスカートの少女 (角川文庫)

燃えるスカートの少女 (角川文庫)