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読書と映画の備忘録

夜の魔法

夜の散歩は大好き。
ねむっていたアンテナが目覚めて、白昼には見えなかったなにかを拾おうとする。なにげない風景も、少しちがってみえる夜の魔法。

薄暗い路地から不夜城のようにあかるいビルやきらびやかな飲食店街を眺めながら、あるきつづける。この大都市がだんだん巨大な屋根裏部屋のように思えてきて楽しい。夢見ているのではなく、都市に夢見られているような眩惑感。

たとえば、閑静な住宅街のひとかど、突然あらわれる素敵に歪んだ細長い階段。ゆるやかに傾斜したそれをおぼつかない足下で降りきって、もっと深く、夜のむこうへと降りていく。すぐそばのちいさな魔法にささえてもらいながら。

そうして夜の底でみつけたのは、まるでドイツのメルヒェン街道の一角のような風景。ちょっと素敵な光景に心のなかでちいさく歓声をあげる。オールシーズン、クリスマスグッズだけを売っているというお店は、すでに閉まっていたけれど、あきらめきれなくて窓からこっそりのぞく。
お店の中は綺麗に飾られたクリスマスツリーやくるみ割人形やらドールハウスや木馬が、ひっそりと朝を待っていて、まるでクリスマスの前の晩みたい(というタイトルのターシャ・テューダーの絵本がありましたっけ)。

ちょっとクリスマスを先取りしたような気分。醒めない夢のようにとてもきらきらしていて楽しくて、でもちょっと目を離すと消えてしまいそうな儚さもある光景。

これも夜の都市がみせてくれた魔法?

綺麗だなと想いながら電飾を見あげていると、いまここにいるのは、じぶんの意志ではなく、だれかに夢見られているからかもしれないと、ふと思った。もしかしたら、この都市が見ている夢なのかも知れないと思ったり。その夢の中では、わたしは、他者の意志によって存在していることになるのだから、悪夢は見なくていい瞬間があるのかもしれない。悪しき自意識から逃れられるから。その夢の中だけでは、せめて。

夜の魔法にすっかりかかってしまった今夜は、魔法がきいているあいだだけ、いつもよりほんの少し自由になって、おうちへ帰る。

醒めない夢をあとにのこして。

※日付は2008年11月21日の夜の出来事。

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ターシャテューダー クリスマスのまえのばん

ターシャテューダー クリスマスのまえのばん