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読書と映画の備忘録

最後のユニコーン その2

「すべてのものが死ぬということは、良いことです。あなたが死んだらわたしも死にたい。かれに、わたしに魔法をかけさせないで。わたしを不死のものにさせないで。わたしはユニコーンではありません。魔法の生き物ではないのです。わたしは人間、あなたを愛している人間です」
(中略)
「駄目よ」彼女は言った。「駄目よ、わたしたちは、それほどには強くない。かれは、わたしを変えてしまうでしょう。そして、そのあとで、何が起ころうと、あなたとわたしは、お互いを失ってしまう。ユニコーンになったら、わたしはあなたを愛さないでしょうし、あなたはそうせずにはいられないということだけのために、わたしを愛するでしょう。わたしは、この世のいかなるものよりも美しくなるのだし、永遠に生き続けるのです」
(中略)
「それでは何のために魔法はあるのだ?」リーア王子は、声を荒げて詰問した。「ユニコーンを救うことができないというのなら、魔法は、何の役に立つ?」王子は、倒れまいとして、魔術師の肩をきつく掴んだ。
 シュメンドリックは、振り返りもしなかった。その声には、悲しげな自嘲の響きがあった。
「そのために、英雄が、いるのです」
(中略)
「仲間たちは、去りました。みんな、自分がやってきた森に散っていきました。一頭ずつ。そして、人間たちには、たとえば、みんなが依然として海の中にいたとしても、それ以上に、その姿を見ることは難しいでしょう。わたしもまた、自分の森に帰るつもりです。けれども、そこで、あるいはそれ以外のどこであっても、満足して生きていけるかどうか、わたしにはわからない。わたしは、人間でした。そして、わたしの内のある部分は、いまだに、人間のままなのです。泣くことも、何かを望むことも死ぬこともできないのに、わたしは、涙と飢え、死の恐怖に満たされているのです。もう、わたしは仲間たちと同じではないのです。後悔することのできるユニコーンなど、生まれたことはないのですから。でも、わたしは後悔することができるのです。わたしは後悔しています」

(ピーター・S・ビーグル、鏡明訳『最後のユニコーン』(早川書房、1979)