37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録


今年の秋の日。


日付がもうかわるころ、雨のなかをおうちへと歩いていたら、金木犀のやわらかいかおりがふっとした。

実家の庭には、いまのわたしより背の高い金木犀が、50本ちかくもあった。毎年花が咲くこの季節は、この香りのなかで、目覚め、ごはんをたべ、宿題をして、おふろにはいり、眠った。

橙色のちいさい花は、枝を打つと、ひかりのしずくのように舞い散った。緑の芝生の上にあつくつもっていく花々を両手で掬い上げ、ひろげたスカートのなかにあつめては、ぱぁっとまきちらして、くりかえし、くりかえし、遊んだ。頭におちた花々は、星々のひかりのように、長かった黒髪のあいだに瞬く。

遠い遠い日の記憶。いまでもめをとじるとあのきらめくひかりがみえるときがある。かすかに、でも決して消えることなく。


現実と夢、覚醒と眠り、絶望と希望の往還をただすごしている。でも、今年の10月もとても美しかった。11月は、さらに空気が澄んでくる。透明になる感覚、時間。夜空を見上げるのが嬉しい季節。