37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

+蝉の声、夏がはじまる


今日初めて蝉の声を聞いた。屍骸はいくつか見かけていたのだけれど。突然、耳に飛び込んでくる生命と死の歌。からだじゅうにしみわたったら、いっそう鮮やかに夏の匂いが鼻腔を衝いてくるね。気づかないうちにも、季節は巡っていたのだと。


一呼吸おいたら、ふとさびしくなって、なにもないと知りながら後ろをふりかえる。心を置き去りにしないように、まだ読みおわらない本のページをめくりつづける。目を通せていない無数の物語を思い、ここからどこまでたどりつけるのだろうと手を虚空に伸ばし、ちいさくためいき。いつかは終わる時間のことが胸を一瞬よぎり、彼方の距離を思えば震えてしまうよな、それでも文字をたどることをやめない指で一行でも一文字でも近く、中心であると同時に外部である特異点へとすすみつづける。無数の蝉の合唱のなか、夏がはじまりを告げた日に。


深呼吸して。夢に踏み込み、迷ったような時間を今年もまた過ごしましょう。どこからか響いてくる音色を尋めゆき、路地裏を渡り歩く風鈴売りを追いかけながら。