37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

+2011年の11月の


ずっといきたかったところへいってきました。いつかとおもっていたところ。両腕いっぱいに真っ白な花束抱えてまっすぐ歩く。これは死者のため? それとも生者のための? ちがう、きっと双方のために、この花々はあらしめられているはず、どちらかではなく……と、そう思いたい。
ずいぶん長いあいだ、眼を閉じるのを赦してもらった日の山の空気は冷たく澄んでいて、花々の清潔な香りに埋もれながら流れる時間は静謐で。木々をゆらしていった風の音が、まだ耳に残っている。


言葉にもならない言葉を交わしながら、かえってはこない声に耳を澄ませていた(そう、それでいい)。いつか胸の中で煌く結晶に育つまで、そっと閉じ込めておかなければならない記憶たち。時の錬金作用を今は信じる。


またね、と無言の約束をして、わたしはふたたび地上へ降りた。あの日からも、時間は流れ、季節はめぐりながらも記憶は鮮やかなまま何度でもあの日のことを思いだす。誰にも言ったりなどしない、心のなかで静かに祈りながら。