37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

石の夢

誰もいないのを見計らい、夏でもひんやりとした石の台座に寝そべる。 皮膚に触れくる石の呼吸は冷ややかで火照る身体を沈静させていく。目を閉じるとすぐに指先から意識が石の夢に侵され始める。何万年ものあいだ、石が見つづけてきた夢が、全身に隈無く浸透してくる。腐爛する身体をもつわたしは、永遠に続く夢に抵抗できず、なすがままにされる。意識は翻弄され、波のようにひいてはよせして、無機質と有機質の、生と死の境をたゆたう。とても長い長い時間のあと、あるいはたった一瞬ののち、ついに潮が満ちる。
ふたたび目を開くことは叶わない。わたしもすでに石が見ている夢の一部となったのだから。