その6
――速度が問題なのだ。人生の絶対量ははじめから決まっているという気がする。細く長くか、太く短くか、いずれにしても使い切ってしまえば死ぬよりほかにない。どのくらいのはやさで生きるか?
――この世に安心できる場所など、どこにもないのだ。自分にはおそらくなにかが欠けているのだろう。ほかのひとたちがもっていて、もっていることが当然であるなにかが。
……あなたはどのように存在しているのか。あなたの肉体がそこにあるということを、何によって証明できるか。
それは誰かによって見られる、ということでしかない。他人の視線や手によって確認されることが、すなわち存在することだ。より確実に存在するためには、より多くの他人に見つめられ、知られなければならない。
知られたいという欲望は、ほとんど愛されたい願いと同じものだ。あなたの肉体が愛されること、あるいは憎まれることが、あなたの存在を意味づける。(鈴木いづみ『いづみ語録』文遊社、2001)
生きる速度を決めきってしまわなければ。覚悟をしてしまわなければ、ただ今の一瞬でさえもおろそかにしないために、この今をも充たすために、はやくはやく決めてしまわなければ。