37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

香水の物語

37℃越えの身体を抱えて、新作香水のチェックをしに伊勢丹へ。空想の亜熱帯の花をイメージしたというラルティザンのリアン、焦げた匂いが香ばしいアニック・グタールのミールアンダント、百日草とスパイスをブレンドしたFLORISのZINNIA……。
 でも、リアンはグリーンノート系で苦手。ミールアンダント、ミルラは面白い匂いだけれど、実際につけたときのイメージが湧かない。でも、古川日出男『アビシニアン』で、女の子がシバに物語った香りだったので惹かれる。
 なかでもいちばんよかったのが、英国王室御用達、270年の歴史を誇るFLORISのZINNIA。これ、100年近くある香りなのだそう。スパイシーフローラル系。このFLORIS、歴史が長いせいか、聞くだけでわくわくするような香りがたくさんある。たとえば、

・malmaison(カーネーション、スパイシーフローラル系)……オスカー・ワイルドが好んだぬくもりのある香り。

・NO.89 (シトラスウッディ系)……ジェイムズ・ボンド愛用の香り。

・NO.129(オレンジフローラル系) ……ロシアの亡命貴族オルロフ公爵の香り。香水名は、調合リストの129頁にあったことに由来する。

・sweet smelling nosegay(ローズ系)……FLORIS2代目当主が戦地に赴いたナイチンゲールのために調合した香り。アロマテラピー効果もあり、穏やかな安眠を誘う。


香り、気配、かたちのないもの、それは記憶とものすごくよく似ている。ひとつの香りから受けとる印象が、それこそひとりひとり違うように。自分だけの香りをさがすのは、自分だけの物語を探求するのに等しいのではないかと思ったりもする。それが既製品だということに違和感を覚えなくもないのだけれど、でも、選択権は自らにあるのだから。

「ミルラのにおい、説明できる?」
「だめよ」と言下にエンマは否定した。
「においは説明できないわ。ことばででしょう?それはまちがい」
「そうなの?」
「においはそれじたいがことばだもの。でも、ミルラには物語がある。それなら解き明かせる。」
古川日出男『アビシニアン』幻冬舎、2000)

 香水物語としては、パトリック・ジュースキント『香水』も外せません。