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読書と映画の備忘録

言葉といふものは

言葉といふものは生きている事の不安から、芽ばえて来たものぢゃないですかね。腐った土から赤い毒きのこが生えて出るやうに、生命の不安が言葉を醗酵させているのぢゃないですか。よろこびの言葉もあるにはありますが、それにさへなほ、いやらしい工夫がほどこされているぢゃありませんか。人間はよろこびの中にさへ、不安を感じているのでせうかね。人間の言葉は工夫です。気取ったものです。
不安の無いところには、何もそんな、いやらしい工夫など必要ないでせう。

太宰治お伽草子」『太宰治全集 7』筑摩書房、1990)