37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

――3年間の神(鬼頭莫宏『殻都市の夢』)

「わたしは命をもらった」

からだとひきかえに、3年間だけ命をもらった女の子の話を読む。

――餓死寸前の女の子の前に現れたひとりの男は、いま死ぬか、自分の許に来て3年間生きるかえらべという。女の子は生きることをえらんだ……男は余命3年の性病に罹っており、当然彼女も罹患した。3年後、彼女も死ぬ運命にある。男は最後に彼女の望み通り、彼女に文字を教えて死んだ。彼女が文字をならいたがった真の理由とは……?

すべてを奪われていた女の子が偶々与えられた3年間。無意味にいつ終わるかわからない生を生きるより、こちらのほうがずっとずっと充たされているように思えた。たとえそれが期限付きだったとしても。だって、彼女はちっとも男をうらんだりしていないのだもの。目の前に立ったそのひとが、かみさまみたいに見えていたから? いや、ちがう。見えていたのではなく、生きているあいだ、情熱をあたえてくれたひとが、彼女のなかでその名に値したという話。そういう存在をそう呼ぶことに躊躇いはない。そしてまたそういう3年間なら選ばずにはいられない。たとえ、あいてがかみさまでなくても。

もしわたしにかみさまがいるとしたら、わたしにどれくらいの時間を与えてくれているのだろう、とふと思ったりもする。いまだにそれはわからず、できれば知りたいと思い、でもやっぱり知ることは叶わないまま。でも、かみさまならもっととおくに、まだてのとどかないところにいてほしいと思ったりもする。

……にしても、このふたりが暮らしていた百万冊以上の蔵書があるあの部屋! 壁の一方が全面硝子張りで中空に浮かび都市を見下ろす部屋が素敵すぎてうらやましかったりするのでした。ところで、某様、このなかにも都市の精霊の物語がひとつはいっていました。もしかしたら探している物語とすこしちかしいところがあるやもしれません……。