37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

もうお目にかかりません

明日もまた、同じ日が来るのだろう。幸福は一生、来ないのだ。それは、わかっている。けれども、きっと来る、あすは来る、と信じて寝るのがいいのでしょう。わざと、どさんと大きい音たてて蒲団にたおれる。ああ、いい気持だ。蒲団が冷いので、背中がほどよくひんやりして、ついうっとりなる。幸福は一夜おくれて来る。ぼんやり、そんな言葉を思い出す。幸福を待って待って、とうとう堪え切れずに家を飛び出してしまって、そのあくる日に、素晴らしい幸福の知らせが、捨てた家を訪れたが、もうおそかった。幸福は一夜おくれて来る。幸福は、――
(中略)
おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。

太宰治『女生徒』青空文庫より)

眠れないまま、気がついたら窓の外は薄青色の曙光。こんなに早く明るくなるなんて(午前4時過ぎか)、もう季節は初夏だ。朝の光は悲しいくらいにまぶしくてまぶしくて、すぐになにもみえなくなる、ほら。