37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

スカイ・クロラ、小説版。

「死にたいと思ったことがある?」
「だから、しょっちゅう」彼女は微笑んだ。なんだか嬉しそうだった。その表情は、瑞季にそっくりだ、と僕は気づいた。
「どうして、そのとき、死なないわけ?」
「さあ、どうしてかな」草薙はますます首を傾げる。「もう少しだけ辛抱していれば、そんな気持がすっかり消えて、あぁ、死ななくても良かったって、そう思うに決まっている、それを予測できるからかもね」

「つまり……いつ死ぬことに決めている?」そう言いながら、草薙は唇を噛み、小さく首をふった。「違うな、えっと」瞳を上へ向けて溜息をつく。「そうじゃなくて、何ていうの、いつなのかって、それを決めようと思ったことはない? だって、そうじゃないと、このままずるずると、私たち……」

「カンナミ」目を瞑ったまま、草薙は言った。「その銃で、私を撃って」
「それは命令ですか?」

                           ――森博嗣スカイ・クロラ』(中央公論新社、2001)



神楽坂のデザイナーさんのところへ出稿したツキモノ(カバーとか帯とか)を届けている途中、半分読み進めていたのを一気に読み上げてしまった。電車に乗る時間が長すぎたのがいけない。目的地が遠すぎるのががいけない。なんて、そういうのはいいわけ。何度もページをめくるのをやめようと思った。一日のおわりにとっておこうって。けれど、いったん引きずり込まれたら、とまるわけがない。読み終わるには十分すぎる移動時間があったのだ。

去年見た押井映画のカンナミと、小説のカンナミの行動は正反対なんだね。でも、同じ風景を見続けるのだとしても君は生きろ、とスイトに言った映画のカンナミと、死んでもまた生きかえって戦おうと草薙に語りかけるカンナミは、行動が正反対でも、おなじことをしているような気がしてしかたない。まだ上手く言葉にならないのだけれど。同じ、同じだ、たぶん、間違いなく。

BGMにBeautiful Worldが流れ、ちょっと混乱しながら、心地よい酩酊感と不安定な低空飛行感覚。言葉を見喪ったそのまま、目を瞑る。











「誰か、私を撃って」
……それがだめなら、せめて叫び出したくなるようなこの堪らない気持だけでも。




スカイ・クロラ

スカイ・クロラ