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読書と映画の備忘録

+玉川重機『草子ブックガイド』


大抵の本は、店頭ではなくて、ネットで知って、書評を調べて、買うことが多いけれど、書店で見かけて、その佇まいで気になってしまう本もある。情報がないとき、頼るのは自分のセンス。帯とか、装丁とか、紙質とか、手にもって、ビニールがけされている本を四方から眺めて、その本のなかにどんな物語が詰め込まれているんだろうって、あれこれ想像する。

そうやって、じたばたしながら買った本って、何がはいっているかわからない贈り物をもらったときのよう。高まる期待感と期待はずれのものがはいっているのではないかという思いで、胸がどきどきで、いっぱいで。帰り道、気持がはやって、知らずに知らずに早足になっている。

大学生のころは週に3回ほど、半日以上を神保町でそうやって過ごしていた。棚のあいだで、買って読んでみたいけれど、つまらなかったらどうしようって悩むのも、本たちから、謎かけをされているようで、楽しかった。わたしを読んでみますか?っていつも問いかけられているようで。そして、そういう本が思いがけなく心の琴線に触れてくるものだと、余計に忘れられなくなる。本のかみさまが、めぐりあわせてくれた一冊として。



実は、数日前に、書店で20分くらい悩んだ挙句、表紙だけで買った本がそうだったので、とても嬉しかったのです(それは音楽でも映画でも同じ、ね)。そういう風に本を買うのも久しぶり。なにも買わずに店を出ようかと思ったのだけれど、トーンなし、カケアミだけの画風にも惹かれて、やっぱり連れて帰らずにはいられなかったのだった。

それが、玉川重機『草子ブックガイド』(講談社、2011)。

主人公の女の子は、本が大好き。でも、自由に本を読めるような環境にはいなくて、本を読みたいがために古書店、青永遠屋【おとわや】で、毎回あることをしてしまう(主人公が通う中学が西荻中学らしい、ということは、やっぱりあの西荻音羽屋さんがモデル?)

それを、古書店主は理由があって、黙認している。けれど、たまたまとある事件が起こって、女の子がその古書店を手伝うこととなり――このほかに、古書店員である青年と、女の子が通う学校の司書でもあり国語教師でもある女性が登場して、彼等を中心に、本にまつわるさまざまな思いが描かれていく仕様。

閉じこもりがちな主人公や、すこし人生にくじけそうになっていた人たちの心が、本によってまた新しい世界や風景に導かれていく。その様子が、漫画ならではの表現で、とても魅力的に描かれていた。書物がある風景って、やっぱり素敵だと思う。

一巻目のなかで、取り上げられている本は、『ティファニーで朝食を』『ロビンソン・クルーソー漂流記』『山月記』『山家集』などなど。よく知られているものばかりだけれど、丁寧に物語と関わっている心の軌跡がどんどん伝わってきて、再読したくなる力が、この漫画にはあるようです。

本の中にしか居場所がないひと、かつてそうだったすべてのひとにおすすめしたくなってしまう一冊。

本のあるところは落ち着く…
ここは一番…落ち着く…
目がまわる外の世界の時間と違って…
ここはゆっくり時間が流れてて…
本の一冊一冊がひっそり息をしているようで…
(中略)
生きてる本の中でならあたしは……
誰とでも会える…
生きてる本の中でならあたしは――
どこにでも行ける

…学校は…あたしのいる所…ないです…
あたしは一人でいる時より…みんなといる時の方がさびしいです…

「蔵書は星空を眺める時の感情にも似た感情を呼びおこす事がある」
さすが店長!! いい事言う!
トーマス・マンから借りた
あ……
あのコ達ならきっと……たくさんの本の中から――星をみつけることができるだろう

草子ブックガイド(1) (モーニング KC)

草子ブックガイド(1) (モーニング KC)