37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

月蝕


しんしんと冷え込むので、コートに、マフラー二重にして、ニットも重ね着して、さらにレンジで熱々にしたゆたぽん抱えてお外。おうちの近くで、ちょうどよく見えるスポットを発見。左下端からだんだんとかけていく様子は、肉眼でもくっきり見えました。写真を撮るには、わたしの携帯カメラでは遠すぎて。ツイートするにもすぐ言葉がでてこなくて。ただぽかんと空を見上げて、魅了されていた天体ショウ。普段は静かな住宅街の深夜なのに、たくさんのひとがでてきて、思い思いの場所で、みんな空を仰いでいた。なんだか楽しい。



最大になったとき夜空に見えたのは、まるでお蜜柑かグレイプフルウツみたいなお月さま。巨大な果実を夜空に放り投げて撮った静止写真のような、今にもおっこちてきそうな立体感と生々しさ。月が本影にはいって完全に翳ると、小さなビーズを空一面に撒いたような冬の星座たちが、いっそうあかるくまたたきはじめます。寒さも忘れて、そんな不思議な光景を、ずっと見ていました。



奇しくも当夜は、黒鳥忌。ハネギウス一世なるあの方は、月蝕領でも薔薇を育てていることでしょう。もしかしたら昨晩は、彼方から地上を見ていたかもしれません。
――小説は天帝にささげる果物、一行たりとも腐っていてはならない――
月を見ながら思い出す、ハネギウス帝の至言。素敵だったので、すっとはいってきた言葉。



欠けていく蝕の美しさそのままを言葉にうつしとることはできないけれど、美しいと思った記憶が、誰かに伝わる可能性は信じる。伝えたい、と心から思うから。



月から目くばせが届いたような気になったから、最後に天にむかってしずかにおじぎして、おうちに帰ります。こういうのを見ることができるのってほんとうにしあわせ。



BGM……月蝕にちなんで、月の繭とUndertheMoon@黒百合姉妹