37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

+ミルラ


気がついたら、今日はずっと、わたしからミルラの匂いがしていた。春の嵐の夜、暗い部屋のなかで、猫が毛づくろいをするように、裸体にすりこんでいたボディクリームの匂い。


香料であるミルラは、その樹木の樹脂から採取される。アフロディテへの祭祀を惰ったために彼女の怒りを買い、父であるキプロスの王に恋するよう呪いをかけられた乙女ミュラ。夜毎、愛を交わした女性が娘だと知った王は憤り、彼女を殺そうとする。すでに身籠っていた彼女は、神々に救いを求めた。乙女の命が絶たれようとした寸前、その祈りは聞き届けられ、彼女は一本のたおやかな樹木にその姿を変じる――ミルラの樹脂は、そのミュラの涙だという。


ミルラの神話を纏って歩く日、見上げれば、桜がほぼ満開です。