37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

+花火を見ながら、あの一瞬のことを

――隅田の夜空に打ちあがる花火を見にいきました。雨天のため、中途の中止は史上初とも聞きました。それでも心の琴線に触れるには充分な時間、花火を堪能してまいりました。

暗い夜空にたった一瞬、鮮やかに咲く焔の花。ひとまたたきするあいだだけ、網膜に閃く光。それは、ときどきほんのわずかな時間、この世界に奇跡のように顕れる美しい瞬間そのもの。だから、こんなにも花火には惹かれてしまうのだと思う。


打ち上げられる花火を見つづける。花火が開く瞬間は、ただそれを見ている。なにも考えていない。花火になっている。花火が消えてしまったあとに、ようやくそれを見ていたことに気づく。夢から覚めたときのように。
いまは存在していないのに、わたしのなかにある無数の花火の記憶。つまり、この世界に顕現した美しさの記憶たち。それを憶えているということ、まだ思い出せるということ。その一瞬があるからこそ、次のその瞬間までの苦痛を耐えられるということ。


そういう記憶によって生かされ続けている、そう気づいたからこそ、昨晩、目の前に繰り広げられた美しい景色のことも忘れないでおきたい。そのうちまた訪れるはずの次の瞬間に、たしかに飛びうつることができるように。