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読書と映画の備忘録

リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』

ヴァイダは自分の体に向かって、雨が降るときのような身振りをしながらいった。「これはわたしじゃありません。それがやることに対して責任を負えるわけがないでしょう。ほかの人からなにかを得ようとしてこの体を利用する気はありませんし、そんなこと一度だってしたことはありませんでした。
わたしはそれから隠れることにすべての時間を費やしてきたほどです。自分の体がまるでB級映画に出て来る怪物であるかのように、それから隠れることに一生を費やすなんて想像できますか? それでいて毎日、この体を食べるために、眠るために、そしてあるところから別のところに行くのに使わなければならないのです。お風呂に入るときはいつも、吐き気を催しそうなほどです。わたしは間違った皮膚のなかにいるのです」
(中略)
わたしは彼女のパンティを脱がし、その行為は完了した。ヴァイダは一糸もまとわない裸で、そこにいた。「ね?」ヴァイダはいった。「これはわたしじゃないでしょ。わたしはここにはいないのよ」彼女は両手を伸ばし、腕をわたしの首に巻きつけた。「でも、あなたのためにここにいるようにする、図書館員さん」

――リチャード・ブローティガン/青木日出夫譯『愛のゆくえ』(ハヤカワepi文庫、2002)