37.2℃の微熱

読書と映画の備忘録

+物 語

太陽を背に、端然と立つ人を尋め行きました。青白い氷原でその人は火照りを帯びているようでした。
「熱があるの。少しね」
微笑むその人が氷に刻んだ文をたくさん読みました。小さな熱に溶けた言葉は滴となって黎明の波を奏でます。
「この下にはね。氷琴窟があるの」
両手を割って両耳に被せました。切なくも温かく、眠りたくなるうたでした。うたが掌を、耳を、心を通り抜けて空へと昇ります。
「物語が好きなのですね」
 尋ねると、その人は笑みを広げました。
「それでは物語りましょう。ここにある景色を、温度を、香りを、うたを、あまい血の薔薇までも語りましょう。儚さは滅びるだけのものではないと、美しさの感度を高めるものだと伝えましょう。物語で形どられた貴女の物語。主人公の名は……」
 雪を好きなその人の白い息が囁きます。トゥルヴェールは頷いて、うたいました。
「これは北端あおいの物語。物語を抱き締める人の物語。うたうたおう。うたとうたとの出会いのうたを、新たなうたの生まれるうたを、祝福とともにうたうたおう」



この日記を読んでくださった方が感想のような、ちいさな物語のようなメッセージをくださいました。ご許可をいただいて転載いたします。まずは日記を読んでくださってありがとうございます。一般性のない日記です。読んで戴けるだけでも嬉しい日記に、言葉まで戴いてしまいました。
でも。もしもこの世界のどこかに同じような思いをしている人がいるのなら、そういう人たちに届けばいいなと思って書いています、日記というよりも手紙を綴るように。そして、一瞬でもこの世界を美しいと思ったことを忘れないために書きたい。たとえば、書物や映画、巡り会った景色や人形として目の前にふと顕れてくるものたちのこと。心の琴線にそっと触れてきてくれたものたちのことを忘れずに憶えておきたい。だから、この世界の記憶を書き続けていく。そんな思いはこれからも変わりません。なので、あらためてご挨拶。ここをずっと読んでくださっている方々にもいっそうの感謝とお礼の気持ちをこめて、いつもお読み戴きありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。